「麦酒とテポドン」文聖姫[ムンソンヒ]

「麦酒とテポドン」文聖姫[ムンソンヒ]

書名からのイメージでは、くだけた内容かなとも思いましたが、なかなかどうして、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)をめぐる問題が、歴史的な経過を含めてきちんと詰まっていて、「そういうことなんだ」と合点がいきます。

著者は本書執筆の動機を「プロローグ」で次のように書いています。

「北朝鮮といえば(略)核兵器やミサイル、拉致、飢餓や独裁……(略)だが、北朝鮮の人々が何を考え、どのように生活しているかを伝えてくれるものは少ない。ほとんどが指導部の政策を分析するものか、庶民の生活を描くものでも、脱北者をソースにした飢餓や生活苦などマイナスイメージを強調したものが目立つ。まさに『残酷物語』。だが、果たしてそれが北朝鮮の実像をすべて伝えていると言えるだろうか。

大学生時代の1984 年に初めて訪朝して以来、2012 年までに計15 回北朝鮮を訪れた。(略)常に関心を持って追求していたのは、北朝鮮の一般の人々の普通の暮らしだ。その国の人々の喜怒哀楽を知らずして、その国の実像を知ったとは言えないだろう。(略)本書では、そのような北朝鮮の普通の人々の暮らしぶりや考えをできるだけ伝えたつもりだ。書くにあたっては、自分の目で見たり体験したり現地で聞いたりしたことだけに限定した。取材源のはっきりしない伝聞情報は、特に北朝鮮のような国について語る際には注意が必要だ。本書を通じて、リアルな北朝鮮を知ってもらえば幸いだ。」

1989年の「ベルリンの壁」の崩壊、冷戦終結、1991年の「ソ連崩壊」という歴史的な事件は、北朝鮮という国を根底から揺すぶり、その後、苦難の道を歩まざるを得なくなりました。それまでは社会主義世界で平穏理に事が運んでいたのに、一気にそれがなくなり、頼れるものはなくなってしまったからです。

政治的にも経済的にも軍事的にも困難がのしかかり、それこそ国家存亡の淵に立たされたと言っていいかもしれません。とりわけ、休戦状態にあるアメリカとの緊張関係にいかに対応するか、さしせまる危機を乗り越えるためにとれる手段は限られていました。国家と体制の存続が「北朝鮮」にとっては最優先かつ最大の課題となり、すべてはここから発していると言ってもいいのではないかと思います。そうした文脈で物事を見ないと、「北朝鮮」のふるまいを理解するのは難しいだろうと思います。

冷戦が「終結」し、資本主義が世界を席券する中にあって、「北朝鮮」もその影響を受けざるを得ず、中国みたいに開放政策をという圧力が有形無形にかけられ、ある時はその方向に流れ、またある時は逆向きになるといったことを繰り返している節もあります。まさに「経済」と「軍事」の狭間で揺れ動いているのだと思います。

「北朝鮮」の内情を知る著者のイチ押しは、「大同江ビール」。果たして、改革・開放の象徴になるか?とりあえず、飲んでみたいものです

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です