「暗黒を切り裂け」
南アフリカでアパルトヘイト=人種隔離政策の撤廃運動を指導し、ノーベル平和賞を受賞したネルソン・マンデラ元大統領が12月5日、死去し(95歳)、哀しみが世界を駆け巡った。マンデラ氏は、1918年、イギリスの支配下にあった南アフリカに生まれ、大学在学中から、白人政権の下で行われていたアパルトヘイトの撤廃運動に取り組んだ。1962年に逮捕され、国家反逆罪で終身刑を受けたが、獄中からも黒人解放を訴え続け、「不屈の闘士」として、世界中から尊敬を集めた。釈放後は、白人政権との対話によって人種隔離政策の法律をすべて撤廃した。1994年には、初めてすべての人種が参加した選挙を経て黒人として初の大統領に就任し、異なる人種間の融和と民主化に努めた。10日に行われた追悼式典には、時折激しい雨が降るなか、数万人の市民が駆けつけマンデラ氏の写真を抱えたり、国旗を振ったりしながらマンデラ氏に別れを告げた。アメリカの歴代の大統領4人など、国や国際機関の首脳級およそ100人が参列した。
寺本さんの資料を整理していたら、「豊中文学」15号(1986年)にアパルトヘイトを取り上げた詩を見つけた。死刑に処せられたベンジャミン・モロイセという詩人のことをうたったものだ。心が痛くなるような作品だが、寺本さんの視野の広さと心のあたたかさが伝わってくる。以下に紹介する。
南アフリカの
黒い詩人
ベンジャミン モロイセは
警官暗殺の容疑で逮捕され
死刑を宣告された
国内は もとより
国連事務総長はじめ
欧州各国から
助命の要請が殺到したが
ボタ大統領は これを一蹴して
死刑執行を命じた
最後の対面をゆるされた母に
詩人 モロイセは叫んだ
・・・・・お母アさん
俺は あした
絞首台にむかって歩くあいだ
俺の詩を朗読するんだ
アフリカに暗黒はもういらない
暗黒は もう御免だ!
処刑される前夜
数百人の黒人たちが
詩人に祈りをささげようと集まったが
警官たちは一斉に
催涙ガスをあびせて
追い散らした
処刑台にむかって
詩人 モロイセは
一歩一歩力強く歩く
大地を踏みしめて歩く
天を仰ぎ 声高らかに叫ぶ
自作の詩を叫ぶ
大空よ
輝く太陽よ
俺は人間だ
俺たち黒人も 人間だ
差別は凶器だ― 人を殺す
差別の思想は 戦争につながる
差別社会に平和は無い
人種隔離政策よクタバレ!
立て 黒い男たちよ
奮い立て
走れ 黒い男たちよ
嵐にむかって
突っ走れ
走れ アフリカよ
嵐にむかって
突っ走れ
アフリカの暗黒は もう御免だ
この暗闇を切り裂け!
この暗黒を ぶち破れ!
一九八五年十月二十一日「毎日新聞」の「余録」欄にベンジャミン・モロイセ氏の処刑されたことが奉じられた。
悲しみのあまりこの拙い詩をささげる。