2023.4.15 人権文化まちづくり講座
「地域を学び、地域を作る~「聞き取り」の広がり~」
お話:安岡 健一さん(大阪大学大学院人文学研究科 准教授)
今日は、今ここに集まっている参加者のみなさんそれぞれの歴史が、地域の歴史とどうつながっているのか、歴史が自分にとって持つ意味を考えることが目的です。そのために、地域史のあゆみを振り返ったうえで、簡単な「自分史」と「聞き取り」にとりくんでみましょう。
地域史はどんな時に必要とされてきたのでしょうか。地誌を調べることは古来から存在しましたが、1920-30年代、地域社会における人の生き方が激変し、地域に残る資料が失われていく切迫感のなかで地域史を書くことが各地に広がったことを共有したいと思います。今、私たちも大きな変化の時代を生きています。
地域史で重要なのは、何に基づいて歴史を書くかです。古文書や公文書、碑は重要な資料です。その一方、記憶として頭の中で覚えられているだけの「歴史」があります。放っておいたら無くなってしまう生きられた経験を、きちんと形にするという意味で、資料の「創造」が必要です。
1970年代に色川大吉というユニークな歴史学者が「自分史」という理念を提唱しはじめました。そこでは自分が生きた経験と時代とを結びつけることの必要性が強調されました。私も、自分史には重要な意義があると思います。
近年では、図書館の闘病記文庫や地域回想法などケアの現場で個人の経験に着目する取り組みがみられます。その実践の中で人が出会い、つながりが生まれて、地域活動に積極的に参加する人も生まれてくるという話も聞きました。孤独や孤立対策として、自分史に取り組む市民もいます。こうした従来の歴史研究の範疇とは異なる領域で取り組まれる人を支える営みに、歴史の探求が果たしうる役割は、急速に可能性が広がっていると思います。
1985年にユネスコの成人教育に関わる会議で採択された学習権の一節に次のような内容があります。学習権とは、読み書きの権利であり、問い続け深く考える権利であり、想像する権利であり、自分自身の世界を読み取り歴史をつづる権利である、と。歴史をつづる権利が実現できるように、必要な手助けを得られるべきだという事でもあると思います。市民と専門家の協働によって、個々人の人生と地域社会を豊かにする可能性を考えていきたいです。
当日は、こうした内容の講演にあわせて、自分自身の懐かしい「道」の地図を思い出して書き、それについてグループで語り合うワークショップを行いました。最後に、これからやってみたい聞き取りや書いてみたいことについて話し合いました。
©一般財団法人とよなか人権文化まちづくり協会